環境への影響

採集により昆虫の個体数は減少しているのか?

「作品に昆虫を使うことで虫の個体数が減少しているのではないか」という質問をよくお客様から頂きます。心配されてのことだと思いますが、昆虫の個体数は採集によって影響を受けるどころか、昆虫採集は実際のところ昆虫の個体数保全のために有効な手段であるというのが昆虫学者や環境団体などの一般的な認識なのです。これは誰もが思いもよらないことでしょう。昆虫の捕獲が環境に与える影響を知るには、まず昆虫採集がどのように行われるのかについて基本的に理解することが大切です。まず、昆虫は養殖されている場合を除いて、素手か捕虫網で捕まえます。夜行性の虫を集めるために光を灯したり、昼行性の虫を集めるために発酵させた果実をビール漬けにして地面に置いたりもします。このように入念な手間をかけて昆虫を捕まえるわけですが、比較的時間がかかるため捕まえた虫はとても有難い収穫となります。

昆虫採集人が世界中のジャングルを駆け回って捕まえる昆虫の数と捕獲効率を、同じジャングルに生息する鳥やヤモリ、カエル、猿、コウモリ、捕食性の昆虫、虫を食べるその他の無数の動物が捕まえる昆虫の数と捕獲効率とを比較してみると、昆虫採集人が昆虫の個体数に与える影響は自ずと明らかです。食物連鎖の最下層にいる昆虫が個体数の減少を食い止め、種を守るための主な手段は多くの子孫を残すことです。これはたくさん捕っても乱獲にはあたらないということや、政府の監視や許可手続は大切ではないということを言っているのではなく、実際に昆虫の個体数の激減につながる原因は「生息地の破壊」という別のところにあるということなのです。

Christopher Marley Peru

脅威にさらされる生態系の保護―過去の事例から

2001年後半、私はペルーのサティポという小さな村でモルフォ蝶の採集場所を探していました。そのときガイドについてくれたのが蝶や蛾を専門とする現地の男性で、長年にわたって昆虫の繁殖や採集に携わっていた彼は現地の昆虫の生息状況についても豊富な知識を持っていました。私たちは4輪駆動に乗ってガイドのお気に入りの場所に向かったのですが、途中で4~5年前に伐採が行われた開拓地に立ち寄りました。

Sangaris Levels

ガイドの説明では、伐採前にはいつもたくさんのモルフォ蝶がいたそうなのですが、モルフォ蝶の寄主植物が樹木と共に伐採されてしまったため今ではモルフォ蝶も寄主植物もこの地では絶滅してしまったそうです。その後、ぬかるんだ泥道を更に進み、いくつかの皆伐地を通り過ぎて4時間ほどジャングルの奥へ走ると、セルバに居住する先住民族の地域へと到着しました。現地の首長から先住民族地域での採集許可(有料)を得た後、更に1時間ほど徒歩で進みアマゾン川の支流にたどり着くと、短い砂岸にはかなりたくさんの蝶がおり、先住民族が雇われて標本にする昆虫を採集していました。ガイドの家族はここで先住民族と一緒に蝶の採集を11年間していたのですが、採集している蝶の数は毎年増えていたとのこと。先住民族は採集に対する報酬で収入を得ており、それが当地を伐採から守ることになったのです。この地域の周辺では、このように持続可能な需要がなく伐採の波が押し寄せるのを防ぎ切れなかったり、現地当局が誘惑に負けて一時の金銭のために森を犠牲にするようなケースもあったようです。

森林地域や絶滅寸前の生態系がある地域に住む人は、昆虫のような再生可能かつ持続可能な「産物」の捕獲で生計を立てることができます。こうして収入を得られることで暮らしの礎となる生息地を守ることができるのです。インドネシアやパプアニューギニア、ケニアなどの地域では昆虫の捕獲と繁殖に関するプログラムが実施されており、絶滅危惧種の生息地を保護する措置も取られているため、これらの昆虫の個体数が安定または増加しています。生息地の破壊を食い止め、寄主植物を増やして絶滅危惧種の昆虫を呼び戻すことは効果的であることが実際に証明されているのです。なお、これらのプログラムは一定数の昆虫を捕獲し、収集家や取引業者、科学者、研究所などに販売することで資金を得て運営されています。

科学的コンセンサス

ナショナルジオグラフィック2001年1月号のスカラベ(玉虫)に関する特集で、著名な昆虫学者であるロナルド・ケーブ氏は次のように述べています:

「スカラベは豊富にいるというのに、自然保護論者の中には個体数の減少を心配する者がいる。しかし、我々の調査ではその懸念とは反対の結果が出ているのである。昆虫の捕獲はジャガーの狩りのようなものではない。採集人は成体のみを捕まえるが、その一方で地中には何百万ものスカラベの卵、幼虫、サナギがいるのである・・・スカラベの最大の脅威は昆虫採集人ではなく、熱帯林が農耕地へと転換されスカラベの生息地が失われることだ。現地の人々によって玉虫の採集や養殖が管理された状態で行われることで生息地の消滅を遅らせることができると我々は考えている」

昆虫は世界中の熱帯林で見られる再生可能・持続可能な資源であるだけでなく、人々が他者に阻害されることなく環境と共生する道を示してくれる存在なのです。

スミソニアン博物館のアーサー・エヴァンス氏とトランスバール博物館のチャールズ・ベラミー氏は共著「An Inordinate Fondness for Beetles」の中で次のように述べ、理論的かつ非効率的な環境イデオロギーから脱却して維持可能な解決策を見出す必要を説いています。

「カブトムシも減りゆく生態系を守ろうとする動機を与えてくれるのです。自然保護のやり方は、特に熱帯林に関しては手付かずの生息地を守ろうとする理想主義的なものから、人間的な要素を取り込んだものにシフトしていかなければなりません。現地の人々が環境の中にある持続可能な資源を通じて直接現金収入を得られるならば、できるだけ環境を守ろうとするでしょう。カブトムシもそうした資源の一つです。主にカブトムシや蝶をはじめとする昆虫の死亡個体の取引は年に何百万ドルにもなるのです。」

Pheromone_Damselfly

フィールドの観点

先日コスタリカへ行った際、現地の玉虫専門家ジミー・ラリンと共に一晩昆虫採集に出かけました。親しい友人である彼はサンホセの国立自然科学博物館の館長という輝かしいポストを蹴って、青年時代に過ごした小さな村で起業する夢を追いかけると話してくれました。そのときに話題にのぼったのが現地での人の雇用です。失業が当たり前の鄙びた場所でも、そこで起業することによって当地で暮らす人を雇うことができるようになるのです。彼は森林を牛にたとえ、牛の世話をきちんとすると毎日牛乳がとれ、何年にもわたって家族が暮らせるようになるが、もし食用にすると暫くはご馳走が食べられるものの、それまで毎日頼りにしていた牛乳はなくなってしまうと説きました。

Pheromone Shield-Bug

 世界中で生物の生息地が他の用途に転換され元に戻せなくなっています。これは、周囲のコミュニティや周辺に住む人々のニーズによるものです。このような状態の中、多くの人々が二手に分かれて、それぞれの環境やニーズを主張していますが、一方の主張はもう一方にとっては不利益なものとなります。私にとっては、どちらか一方のスタンスが常に必要とされ、常に生産性が高いとは思えません。人間には知恵があるのです。自然界において人間が他の生物より優位に立てたのは、何より知恵があったからなのです。

そのような知恵は、必ずしも「周囲の自然環境の維持」と対立するとは限りません。例えば昆虫の死亡個体は歴史上、どの時代でも重要視されてはいませんでしたが、それでもその需要は大きく、供給も豊富に行われています。これと同じように責任を持って実行可能な形で捕獲できる資源が地球上の様々な生態系にはあるはずです。そういった物へのイメージは自然由来のものだけに留まりません。その例として挙げられるのがエコツーリズムです。エコツーリズムは、人間の起業マインドが地球に対する敬意や情熱と呼応して成り立った成功例といえるでしょう。人間が周囲の自然環境と共に歩み、両者とも利益と保護を得られる方法。それは、我々の持つイマジネーションと同じように無限なのです。